PCもネットがなければ,ただの箱?
かつてマニアックな響きを持っていた「パソコン」
が今や完全に日常的な普通名詞になり,おたく用語
だった「メール」は女子高生はおろか,家庭の主婦
の会話の中にさえ頻繁に飛び交う日常語になった.
パソコンがこの世に現れて十数年,インターネット
が軍事・研究用のシステムから民間に開放されてか
らまだ十年にならない.この間の技術革新と社会状
況の変化を形容する言葉を探すのは難しい.家電店
で安売りされているコンパクトなパソコンは十数年
前のレベルから考えると,あふれんばかりの大容量
メモリー,これでもかという高速処理能力を持った
まさにスーパーモンスターマシンであり,それに至
れり尽くせりの最新ソフトを組み合わせれば,ほと
んどできないことはない,という贅沢な機器に仕上
がっている
しかし,その「パソコン」がまるでただの箱に見
える瞬間がある.インターネット接続が当たり前と
いう環境に何年かを過ごし,ある日突然(機器の入
れ替え等の際のハプニングで)接続不能状態になっ
た瞬間だ.「え?! ネットにつなげなきや,何にもで
きないじやん!」というのが,その時の実感だ.今
やパソコンは,それ自体で単独に使う機器というよ
りは,ネットワークの中に組み込まれ,その入り口
として,ネットワークにつながるすべての情報世界
と一つになって使う道具なのだ.インターネットに
つながれたマシンは,全世界を覆う巨大な情報網と
つながり,そのニューロン=ネットワークにつなが
る無数のマシンとあらゆる情報を瞬時にやり取りで
きるシナプスと化す.ひとたび,その融通無碍な情
報伝達網の中に暮らした人間は,ネットワークから
切り離されたマシンの非力さ,無力さに驚かざるを
得ない.
ほんの5,6年前のわが国のインターネットの黎
明期,個人が利用するには,電話線を使い仲介業者
の中継地点から細々とつなぐしかなかった状況から,
普通の家庭で,高速の常時接続が当たり前になりつ
つある現在に至り,人間の社会生活にとってインタ
ーネットによる情報伝達は不可欠なライフラインの
一つになりつつある.
この秋,あの衝撃的なニューヨークのテロ事件の
際,筆者はたまたまニューヨークに滞在しており,
国内との連絡,現地の交通事情,航空使の発着事情
等の情報の入手にインターネットなしでは途方に暮
れる状況に置かれて,そのことをあらためて痛切に
実感した
<緊急Report,64頁参照>.
|
筆者は10年ほど前から,歯科医師会組織で情報調
査関係の仕事に関わってきて,組織活動とはすなわ
ち情報伝達活動である,という思いが深まるばかり
である.インターネットという情報伝達網が社会基
盤の一つとなりつつある状況の中で,その活用とい
うものを抜きに,組織活動のあり方は展望できない.
社会のあらゆる分野で,情報伝達のあり方の抜本的
革新が進みつつあり,そのような社会状況のあり方
の変化に対応していかなくては,取り残されていか
ざるを得ないからである.
平成9年の秋,兵庫県歯科医師会では,インター
ネットを活用して次の@〜Bの情報ネットワークシ
ステムをスタートさせた. すなわち,
@県民向けホームページの開設
A県歯会員専用の情報提供システム (イントラネッ
ト)
B役員・委員の連絡用電子会議室
システム
これらは当時としては,きわめて先進的な試みで
あり,時代の方向性についての執行部全体の理解と
暖かい支援なしではなし得ない事業であった.当初
戸惑い気昧であった事務局も,その方針が執行部全
体としての取り組みであることが明確になって以来,
積極的な姿勢での対応が目立ってきた.3000名を越
す会員を対象に職員数約60名で対応する組織の運営
のための事務量とコストは膨大なものであり,情報
流通のネットワーク化,デジタル化が,その合理化
とコスト削減につながることを幹部職員が理解し始
めたからである.数年をかけてリース切れのワープ
ロをネットワーク接続されたパソコンに置き換えて
いき,たまたま施工されることとなった会館内の空
調リニューアルエ事の機会を捉えて,全館にLAN
ケーブルを敷設した.昨秋には,職員全員に1人1
台のパソコン配布が実現し,事務のネットワーク化
が着実に進んでいった.
上記の3つのシステムはそれぞれ時期的なズレは
あったものの,その試みの先進性は順次証明されて
いくこととなった.@の県民向けホームページに関
しては,その時点で全国の都道府県歯のトップグル
ープとしての開設であったが,その後ホームページ
開設が相次ぎ,数年のうちにホームページを持たな
い都道府県歯はない状態となった.
その(2)に続く。
|