大学院博士課程への進学

大学院修士課程の総仕上げとしての修士論文が担当教授と教授会の承認を頂き、無事4年がかりの修士課程卒業の見込みとなりました。

私としては、この修士課程での研究の中で直面した新たな大きなテーマについてさらに研究を深めたい気持ちがあり、博士課程での研究を目指す事にしました。2月初めから具体的な準備手続きを始め、さらに入学試験としての英語と口頭試問に臨みましたが、本日、無事合格となり、一息ついております。今後もさらに研究に取り組んでいきたいと思います。

入学志願手続きでまとめた『志望理由書』と『研究計画書』が、私の現在の思いを表していると思います。

 

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《志望理由書》

1)経済学研究科後期博士課程への入学を志望した理由

 私は、1982年明石市にて歯科医院を開業し、以来30年以上開業歯科医として過ごして来ました。この間、開業初年度から当時発売されたばかりのPCと会計ソフトを利用して決算処理までを自主記帳によって行って来ました。その後、税務当局と折衝する機会も多く毎年の確定申告でも種々の問題に直面した事から、会計学や税務問題に興味関心を持ち始めました。

 10年ほど前から、診療実務は後継者に任せ医院の総合管理と会計処理のみを行う立場となり、比較的時間の余裕が出来ましたので、これらの、いわば現場での必要性から得た知識を改めて整理し、体系的に理解したいと考えました。

 2年間の会計研究科での学習により財務会計や経営学の基礎を学び、さらに経済研究科で税法、税務会計全般を学び濱田ゼミで国際租税問題について修士論文をまとめました。 

 この修士論文を作成する過程で、問題の背後に、デジタル化・ネットワーク化による現代経済の非物質化的転換という大きな問題がある事に気づきました。過去の自身の経験や学習の総括として、このような現代経済の問題に取り組んでみたいと考え、後期博士課程での研究を志望しました。

2)大学その他における学習履歴

 私は1972年大阪外国語大学(現 大阪大学外国語学部)英語学科を卒業し、引き続き大阪大学歯学部に入学、1977年歯学部を卒業し歯科医師免許を取得しました。その後、徳島大学歯学部と三菱名古屋病院での勤務を経て、1982年から約30年間、開業歯科医として過ごしましたが、10年程前から後継者に診療実務をほぼ任せる体制になりました。 

そして、2018年本学大学院の会計研究科に入学し2020年卒業の後、さらに経済学研究科地域公共政策コースにて税務関連の研究をして、本年3月卒業の予定です。会計研究科において、会計学、税務全般についての基本的知識とその体系的な考え方を学び、さらに経済学研究科にて租税法全般と特に国際租税問題を中心に現代経済の状況についても学ぶ事が出来たと思います。

3)修了後の進路について

 会計研究科にて会計分野を中心に、経済学研究科にて税務を中心に、総合的に学ばせていただきましたが、さらに現代経済全体の問題について研究に努めたいと考えております。

 立場上社会的職を求める予定はありませんが、出来れば、これまで実務経験も含めて学んで来た事を総括的に一つの研究結果にまとめる事を目標にしたいと思います。

《研究計画書》

 私は、履歴書の通り、大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)英語学科と大阪大学歯学部を卒業後、明石市にて歯科医院を開業し、約30年間医院経営を経験しました。その開業初年度に、顧問税理士の単純な事務的ミスにより高額の追加税額を払う経験をしました。その痛切な経験から、やはり自分で押印して提出する申告を人任せにするべきではないと考え、それ以来30年間、基本的に自主記帳、自主申告を続けました。

 一方同時に、その開業の年に日本で初めての実用的パソコンであるNECのPC9800が発売され、この最初期のパソコンと会計ソフトによる記帳・申告の効率性に感激しました。そして、それ以来、常にIT分野の急速な技術革新に興味を持ち続け、殊に、スティーブ・ジョブズの強力なリーダーシップにより次々に生み出されるアップル社の革新的な新製品を追い続けました。また当初軍事目的で開発されたインターネットが一般開放された後、急速なネットワーク技術の開発により、瞬く間に現代生活のあらゆる分野に深く広範な変化を及ぼす過程を自身の生活の中で実感して来ました。

 本学においては自主記帳の経験から興味を覚えた会計分野について会計研究科で学び、また、自身での確定申告や様々な税務問題の経験から、経済学部大学院にて、税務問題を中心に学んで来ました。そして、上記のようなIT分野での関心から非常に深く興味を持っていたアップル社の租税回避問題を対象として、修士論文をまとめて来ました。

 この国際的租税問題について調査研究をする過程で、このような問題の背景には、現代経済のデジタル化とネットワーク化、グローバル化による「経済の無形資産化・非物質化」が大きく関わっていることに気がつき、この問題をより深く追求したいと思うようになりました。すなわち、修士論文でテーマとした現代の多国籍大企業による巨額の租税回避問題も現代経済の非物質化的転換が及ぼす各方面への様々な影響の一つであり、その背後にある現代経済の変質は、蒸気機関の発明による第二次産業革命に匹敵する大きな産業革命とも見立てられる歴史的に巨大な経済構造の転換であると思われます。その問題全体の広範な視野から、出来ればより定量的な研究分析が必要と思われ、そのような研究の一端に関わりたいと思い始めました。

 振り返ると私がこのような問題を意識し始めたのは、1995年に全米ベストセラーになったという『ビーイング・デジタル ービットの時代ー』(米 MITメディアラボ所長ニコラス・ネグロポンティ)を読んだ時と思われます。インターネットの本格的普及が始まったこの時期に、早くも、今後の経済、社会の中で物質(アトム)から非物質な情報(ビット)のウエェイトが圧倒的に高まり、重要になる事を指摘しており、その影響の大きさについて深い示唆を感じました。

 その後、アップルやアマゾンなどの多国籍巨大企業の大規模な租税回避問題をテーマにした修士論文をまとめる過程で、現代経済において、データやプログラム、ブランド、ライセンスあるいはプラットフォームなどの非物質的な無形資産のウェイトが急速に高まっている事を示唆する数々の資料に接しました。とりわけ、私の考え方に決定的な情報を与えてもらったのは、諸富徹氏の『新しい資本主義の形』でした。この書では、「現代経済の非物質的転換」をキーワードに、デジタル化・ネットワーク化・グローバル化による現代経済の本質的変化に注目し、バブル崩壊以降の日本の経済的停滞の原因をこの経済の変質への対応の遅れとし、かつての高度経済成長期の「モノ作り」にこだわる生産者視点からの発想から人的資本への投資による非物質的経済への対応を説く主張は非常に興味深いものと思われました。

 さらにまた國領二郎氏の「サイバー文明論」では、このような現代の非物質的経済の特徴を

 ①ネットワークの外部性(データは集積・結合で価値を高める)

 ②ゼロマージナルコスト(情報産業ではマージナルコストがほぼゼロに近い)

 ③トレーサビリティ(商品の流通経路が完全に把握出来る)

 ④経済システムの複雑系化(様々な要素が互いに影響し合って総体としてふるまう)

と分析し、このような大きな質的転換が進んでいる経済への対応には、単なる経済政策だけではなく、法制や倫理・哲学をも含む抜本的改革が必要ではないかと主張しています。

このような壮大で広範な分野にまたがるテーマの議論に関わる研究は容易ではありませんが、その理論的・思想的議論の裏付けとなる一局面でも定量的に把握するような研究が出来ればと考えています。

 考えてみますと、以上のような方向性のテーマでの研究は私自身これまでの経験や学んで来た様々な分野やテーマの総括にもなるのではないかと思ったりしております。

投稿者:

matsuga_senior

《松賀正考》大阪大学外国語学部英語学科、歯学部卒業。明石市で松賀歯科開業。現シニア院長。 兵庫県立大学大学院会計研究科卒業。同大大学院経済学研究科修士課程卒業、博士課程在学中。