『白夜の世代』と年賀状

今年も年賀状の季節が終わりました。開業歯科医としての現役時代は、例によって開業医生活に伴う日々雑多な業務や課題に追われ、特に年末近くにもなると目の回るような多忙さでした。しかし、その現役を離れた今、大学院生活とともにテニススクールや小旅行等があるとはいえ、時間的な余裕は、限りなくとまでは言えないにしても、比較にならない位あります。そんな有り余る時間を使い、昨年末も自作の年賀状を作成しました。

12月に入るや、PCにある住所録を整理し、住所の変更や喪中欠礼状を頂いている方へは寒中見舞いの形で出す準備等々の事務作業をこなし、今年は年賀状受付期間中に完全にこなし終えました。おそらく我が人生でも今年ほど完璧に年賀状作業を終えた年は無いだろうと思えました。

さらに、年初、頂いた賀状をめくりながら、その短信を確認して、長いお付き合いの方々の近況を知るのも懐かしい思いの時間です。

ただ、最近、頂く賀状の中にチラホラ『今年にて賀状打ち止め』のお知らせのあるものが混じり始めており、少し気になりました。我々の年代は、当然多くが現役を離れる時期であると思います。でも現役を離れた後は一般に(お金はともかく)時間だけは有り余るほど出来るのが通常ではないかと思います。

現役時代での業務の流れでは、一つの作業が一段落すれば、それを一区切りにし一旦打ち止めにして、次の業務にかかるという事は常にあります。仕事とは、そうやって進めていくものだと言う思考習慣もあります。しかし、現役を離れ、仕事に絡む煩わしい拘束を離れた今、年賀状にまつわる業務を打ち止めて、さて次に有り余る時間の中で何をするのでしょう?人にはそれぞれ様々な事情があり、他人様の生活に口を挟むのは全く余計なお世話という事はよく分かっていますが、何か不思議な気持ちがします。そう言えば、昔、『狭い日本そんなに急いで何処へ行く?』と言うキャッチコピーがあった事を思い出しました。(調べてみると、何と昭和48年の警察の交通安全標語だったようです。意外さに驚きますが、ちょうど高度経済成長のモーレツ時代の人々に気づきを与え、響く所があったんでしょうね。)

そして、ふと昨夏のヨーロッパツアーでのパリの光景が目に浮かびました。あらためて確認すると驚くのですが、ヨーロッパの諸都市は緯度的にはかなり北に位置しておりパリの緯度は北緯48.5度であり日本の北海道稚内よりも北に当たります。大西洋を北上する暖流の影響が強いので、ヨーロッパの気候は、その緯度の割に温暖なのですが、その緯度の高さは日照時間の長さに現れ、北極により近い北欧ほどではないにしても夏場には遅くまで日が落ちずいわゆる『白夜』に近づきます。実際、驚いたのですが、このパリの動画のタイムスタンプは、午後10時頃です。

そして、こんな事を思いました。人生100年時代と騒がれますが、それは現世代の我々の人生がちょうどヨーロッパ北部の白夜のような状況になっているのではないかと。

動画の夜更けのパリは未だ日は明るく、街には人が溢れ、セーヌ川には観光船すら遊んでいます。
人生100年時代のシニアライフはちょうどそんなものではないか、と思いました。
そんな時代に人生60年時代と同じように早々と店じまいをするのは面白くないなぁと言うのが、私の感想です🤔

そんな風に人生60年時代の発想や習慣があちこちに残っている気がします。有り難い事に現代の我々の世代は、現役を離れた後も、北ヨーロッパの夏のように長く明るい人生が続く状況が生まれています。過去の時代の発想に囚われて、色んなものを早々と終わらせて、逆にこれからも続いて行く長い人生に何をするのでしょうか。むしろ今まで多忙さの中で十分丁寧に向き合えなかった様々な事を改めてじっくり取り組める事を喜び、楽しみ、味わうべきではないかと思います。

年初に思いついた現代のシニア世代の『白夜時代』説でした。

投稿者:

matsuga_senior

《松賀正考》大阪大学外国語学部英語学科、歯学部卒業。明石市で松賀歯科開業。現シニア院長。 兵庫県立大学大学院会計研究科卒業。同大大学院経済学研究科修士課程卒業、博士課程在学中。