桂離宮とブルーノ・タウト

桂離宮は、日本を代表する名建築として有名ですが、私がその名を知ったのは、おそらくはるか昔の高校生時代に読んだドイツの建築家ブルーノ・タウトの『日本美の再発見』という岩波新書でだったと思います。

この書は、戦前の1930年代前半、ナチスドイツの弾圧から逃れて日本を訪れたドイツ人の建築家によって書かれたものです。モダニズム派の代表的建築家の一人として有名だったタウトは、京都の桂離宮を初めて訪れて、「泣きたくなるほど美しい」「涙がこぼれる」と絶賛したという事です。この書の中でも『まことに桂離宮は、およそ文化を有する世界に冠絶した唯一の奇蹟である。パルテノンにおけるよりも、ゴシックの大聖堂あるいは伊勢神宮におけるよりも、ここにははるかに著しく「永遠の美」が開顕せられている。そしてそれはわれわれに、桂離宮におけると同一の精神をもって創造せよと教える。日本だけに限られたもの、地方的なものなどは論じるに足りない。桂離宮に示された原理こそ、絶対に現代的であり、また今日のいかなる建築にも完全に妥当するのである。』と書いています。

現在では、このタウトの評価は、ナチスの弾圧から逃れて来た状況の中での彼の強い思いが一つの理想を桂離宮に求めた反映があるとも評価されているようです。しかし、若い高校生時代にこの書を読んで以来、西洋の建築家がそこまで絶賛した建築とはどんなものだろう、一度自分の目で見てみたい、という思いはありました。

そして、先日の朝、目覚めの時の晴れ渡った青空を見て、「そうだ、京都の桂離宮に行こう!」という考えが突然浮かびました。半年位前から京都ツアーを考えるたびに行き先の候補にはいつも入っていたので、下調べはしていました。観覧のためには、原則ネットでの予約が必要であること、ただ当日空き枠があれば可能である事も分かっていました。春の観光シーズンとはいえ、平日でもあり、何とかなるだろうと、当日受付開始の8時半を目指して急いで朝食を済ませ、7時過ぎには車に乗り込み京都を目指しました。カーナビのセットにちょっとしたミスがあって廻り道をしてしまい、結局着いたのは10時前位になってしまいました。しかし、結構ゆったりした観覧者用駐車場に車を停め、離宮前の受付に着いてみると、他に人は並んでおらず、10時からの観覧グループに入ることができました。離宮の観覧は、20名ほどのグループで、宮内庁の担当職員の方の説明を聞きながらの集団観覧の形になるようでした。

待合い室で案内図や紹介ビデオを見たり、案内パンフレットをもらったりして、待ち時間を過ごしました。

いよいよ離宮内のグループ観覧の開始。

約1時間をかけて、庭園や建物の詳しい解説を聞きながら、敷地内を回りました。宮内庁の管理ということで少々緊張していたのですが、担当職員の解説は丁寧で優しく分かりやすいものでした。

敷地内を巡っての様子は、私の断片的写真や動画よりも、このコンパクトにまとめられた動画の方が分かりやすいと思います。

桂離宮の庭園を眺めていて、ヨーロッパの堅牢で巨大な建築物に比べると、日本の文化的建築は本当に儚い(はかない)ものだなぁと思いました。この離宮の建物や庭園も、管理している宮内庁によって絶え間ない人の手が入ることで、その美しさが維持されているのだろうと思います。
つい半月前に訪れたイタリアで目にしたローマのコロッセオなど、あれだけの巨大な歴史的遺産なのに、後世の人間たちが別の建物の石材を取るために石を運び出して、現在のような建物の切り欠きができた、という話には呆れます。

儚い建物と庭園を絶え間ない人の手で維持し続けるというあたりが日本の文化的風土なんだなぁと思います。

心地よい春の青空の下での1時間の観覧の後、解説の担当者から、この桂離宮は四季折々の風情があり、桜の季節、ツツジの侯、紅葉の庭園それぞれに趣きがあるが、意外に雨の中のしっとりとした景色や真冬の雪に包まれた光景も素晴らしいとの話がありました。この日の晴れ渡る春の青空の下の眺めにも十分満足しましたが、また別の季節にも訪れ、四季折々の離宮と庭園を味わいたいと思いました。

投稿者:

matsuga_senior

《松賀正考》大阪大学外国語学部英語学科、歯学部卒業。明石市で松賀歯科開業。現シニア院長。 兵庫県立大学大学院会計研究科を卒業し会計専門修士。さらに同大大学院経済学研究科修士課程を卒業。その修士論文で国際公共経済学会の優秀論文賞を受賞。現在、博士課程在学中。