長い学生生活、初のショック

8、9月の長い夏休みも終わりに近づき、いよいよ10月からの後期学期開始に先立ち、ガイダンスが行われました。今年、次々に襲う台風の谷間の爽やかに晴れ上がった秋晴れの1日です。

 

各種の学生生活上の諸注意について長々と続く説明の後、この場で配られる前期試験の成績表がクラスの全員にとって最大の関心事です。ようやくガイダンスが終了し、各人に成績表が配られると、教室中に、様々な空気のざわめきが広がりました。

私も恐る恐る封筒から取り出し、一瞥すると、A+(優)、A(秀)、B(良)、C(可)の4段階の評価が賑やかに並んでいます。ある必修科目の教科がA+で、やったね、と言うところで、他の教科を眺めると、Aが2つ、Bが2つ、Cが2つ、という分布です。
まあ優秀とは言えないけど、見知らぬ土地の、初めての畑で、悪戦苦闘した結果としては、よくガンバった、というところでは、と自分を慰めていて、ふと気がつきました。演習ゼミを除く8教科を受験したはずが、成績は7つしか無い!さては、と思い、素点の記載された別紙を見ると、やはり・・『原価計算』という科目の点数が合格点の60点に届かない53点で、評価がありません。がーん!つまり、私はこの科目で合格点に達せず、単位取得がならなかったのです。ショックが無かったと言えばウソになります。
3度目の大学生活にして初の科目不合格です。(ちなみに、ちょっと自慢すれば、英語学科時代は、優64単位、良47単位、可18単位で、不可、すなわち不合格はありませんでした。歯学部時代は、10人を超す家庭教師のバイトでサラリーマン並みの収入を得ながらも、合格ラインすれすれをかいくぐってきた印象がありますが、科目不合格を取った記憶はありません。)
つまり、これは10年以上にわたる3度の我が大学生活で初めての不名誉な記録となってしまったわけです。

   

でも、この結果は、全く納得のいくものです。この科目の私の理解は、到底合格点に達するレベルではなかったと思います。『原価計算』というこの科目は、いわゆる簿記(狭義には、商業簿記)と並ぶ工業分野の簿記として、会計専門分野の二つの基礎をなすもの(という程度は分かってきました)です。経営学、経済学分野の学部出身のクラスメイトの大半は、大学学部時代から基礎を積み上げてきていますが、私には全く未知の分野でした。開業医生活の中で、日々処理していたのは、分野的に言えば、商業簿記であって、いわゆる製造業の企業の会計システムである工業簿記ないし原価計算という分野は、これまで見たことも聞いたことも無い分野でした。講義を聴き始めた頃は、何のことやら、何をしているのやら全くちんぷんかんぷんでした。理論の仕組みの意味が分からず、私が<教授>というニックネームを進呈した優秀なクラスメイトに説明してもらっても分かったり、分からなかったりと、まだら模様でした。結局、期末考査を受けるにあたっても、この分野の全体像は理解できず、問題を絞り、ヤマを張り、公式を丸暗記して臨まざるをえませんでした。いざ試験となって試験時間の半ばを過ぎても白紙に近い答案用紙を前に四苦八苦している時、早くも答案を書き上げたクラスメイトが、ちらほら途中退場していく様子に、プロのスキーヤーがスイスイ滑って行くゲレンデに紛れ込んだビギナーみたいだな、と苦笑の思いを抱かざるをえませんでした。

しかし学びというのは不思議なプロセスです。分からない、分からないと嘆きつつも、必死で試験勉強をし、丸暗記とは言え、基礎的な公式を覚え、本試験に臨んで真剣に問題を解く、という作業をした後、数日経った頃でしょうか、突然、その全体像がはっきり見えてくる感覚がありました。だから、もう一度トライすれば、きっと今回の期末考査のような足元の覚束ない気分ではなくキチンと問題に対峙できるだろうという気持ちが湧いてきました。
もちろん、ここで投げ出すつもりは微塵もありません。来年前期での再チャレンジは必ずやるつもりです。それだけではなく今秋からの後期に行われる次のステップの『原価計算II』に(もし教授の許可をいただければ)チャレンジしたいと思い始めています。学習というものは、一段先に進んで振り返ると、前の段階が、簡単に理解できて、驚くことがよくあります。そんな効果も期待できるかもしれないと思ったりします。『汝、右の頬を打たれれば、左の頬も出すべし』という聖書マタイ伝の世界だなと苦笑する思いです。

こんな不名誉な一事はあったものの、総体で見れば、春の入学から半年間の前期で、卒業までの2年間で必要とされる48単位中、14単位はとにかく取得できた、という事実は厳然としてあります。大学院に入学の許可はもらったものの、肝心の学習についていけないのでは意味がありません。入試の口頭試問の席上、ニコニコと優しい笑顔で『最初の半年は、クラスメイトに追いつくのに大変でしょうが、そこまでガンバれば、大丈夫ですよ』と言っていただいた某教授の言葉が蘇ってきます。とにかく多くの方のご厚意とお世話をいただいてスタートした大学院生活が、どうにか形になりつつあり、隊列のどの辺りにいるのか分かりませんが、何とか落伍せずついていけている事を喜びたい、とあらためて思いました。多少の擦り傷、打ち身・捻挫は覚悟の上、これからも前進あるのみ、と気を引き締め直した1日でした。

今年は何やら台風の当たり年か、次々に来襲する台風による被害が相次ぎ、この夏休みの最大のイベントと待ち構えていたカナダでのホームステイ計画も、21号による関空被害のため飛行機が飛ばず、台風の暴風とともにツアー計画も去ってしまいました。(Ox-Bridge 国際交流セミナー、期末考査、と連続し、結構気の張る日々が続いたこともあり、ちょうどバランス的には、よかったのかも、という感もありますが・・)。
明後日位に今年3度目の関西直撃となりそうな台風24号も被害が心配なところです。皆さんのご無事と台風による被害の少ないことをお祈り申し上げます。

投稿者:

matsuga_senior

《松賀正考》大阪大学外国語学部英語学科、歯学部卒業。明石市で松賀歯科開業。現シニア院長。 兵庫県立大学大学院会計研究科卒業。同大大学院経済学研究科修士課程卒業、博士課程在学中。