自然の美しさをそのままに<セラミック治療1>
学園都市にある県立大学へ今春から通い始めて、美しいなぁと感動することが毎日のようにあります。こじんまりした緑豊かなキャンパス、晴れ渡る青空のもとで輝く樹木やその足元に咲く可憐な草花、青空をくっきりと切り取るような校舎の建物群、キャンパスを談笑しながら行き交う若者たち、通学の途中で目にする花壇の草花、対照的に、三宮の都心の建物群、立ち並ぶ建物の合間から遠く望める六甲の緑、日々装いを変える店舗のディスプレイ・・・。この世界は美しいものに満ちてるなぁ、と感動することが日々あります。
こんな時、必ず思い出すのが、 Louis Armstrong があの特徴あるハスキーなバリトンボイスで歌い上げる” What a Wonderful world ! ” です。
(ご存知ない方は、是非一度お聴き下さい。こちらです。)
歌詞は、文末に私訳とともに記しておきますが、この歌で歌われているのが、まさに、この世界の様々な場面で、我々が目にする日々の何気ない風景、日常生活の片隅でさりげなく輝く数々の美しさです。普段、慌ただしさに追われると、見逃してしまい、気づかないことがしばしばですが、あらためて落ち着いた心で眺めると、この世界は何て様々な美しさに満ちているんだろう・・と思うことがしばしばあります。
私が歯科医師としての第一線で仕事をしていた最後の時代に、熱心に取り組んだのが、美しさを失わずに修復するセラミック治療技術でした。歯科分野では、その時々の技術革新を受けて開発された様々な材料が主として『歯科理工学』という分野の研究者や歯科材料を提供する歯科材料会社の研究開発によって生み出され、日々、改良が加えられています。
実は、人のお口の中の環境というのは、一般の方が想像する以上に、きわめて過酷です。人間が食物を噛みちぎり、すり潰し、嚥下するまでにかかる咀嚼圧というものは大変強大で、人間の体重を支えられる位の強度がかかります。その強大な力は咀嚼活動に伴って、様々な方向にかかります。しかも、お口の中は唾液で常に濡れていて、きわめて湿潤な環境です。それに加えて、火傷しかねない程の熱いものから、キーンと頭に響く程冷え切った氷まで様々な温度の食物や、酸度の高い酸っぱいものから、汗が噴き出しかねない程の辛い食物まで様々な成分の食物が通過します。こんな多種多様な食べ物や飲み物が通過する過酷な状況下で長期間耐えうる材料としては、金属しかありえないという時代が長く続きました。金属材料とは言っても、その単体材料としての種類や合金の組成には、それこそ無数のものがあり、この分野の専門家は歴史的に長い研究開発を続けて来たのです。メタルが歯科修復材料として主役であった時代は長く続きました。その選択理由の第一の理由は、何と言っても、その強度です。他の材料では、咬合咀嚼の大きな負荷に耐えられず、一瞬にして破壊されるか、仮に短期間は耐えられても、結局機能は果たし得ず、持たない、ということがほとんどでした。
もちろん金属材料には欠点もあり、例えば、金属の種類や組成によっては、イオンが流出して歯肉に着色をもたらしたり、あるいはアレルギーを引き起こして様々な不快な症状の原因になることもあります。(今では、信じられませんが)極端な歯科医不足が社会的問題になった時代、短時間に簡便な処置ができると重宝された水銀アマルガムという材料は、その後、公害イメージ等とも結び付けられ、歯科医療現場から完全に姿を消したような例もあります。
その中で、比較的欠点が少なく、安定した材料として重宝されたのは、ご存知の通り、ゴールドでした。金は、貴金属の王者として、有史以来、貨幣的価値の基準として、また、腐食せず、変色もなく、どんな条件下でも安定して、その鈍い光で人々を魅了してきました。
このゴールドとこれを中心とする金合金は、歯科の修復材料としても、強い咀嚼の重圧に耐えるだけではなく、適度な柔らかさと延性、展性という伸び広がり易さに優れ、しかも、口腔内の厳しい条件にも変質、腐食しないなど歯科材料としての好条件を備えていました。現在でも、余り目に触れない奥歯の修復には適するケースもあります。ただ、難点はやはりその価格で、厳しい財政状態にある保険診療では使えないでしょう。もう一つは、他の金属材料と比べるとましとは言え、その独特の黄金色は、大昔の成金的趣味は別として、前歯に使うのは無理があります。
しかし、歯の修復を自然な形で、美しくしたいと言う欲求は遠い昔から根強くありました。戦後の歯科治療技術の発達史において、時代を画したのは、セラミック技術の応用でした。ちょうど私たちの世代が歯学部を卒業した前後の時代の最先端技術の一つがセラミックを応用した陶材焼付冠(メタル=ボンディッド=セラミック=クラウン)で、保険給付外でしたが、自費診療の花形技術として大流行しました。今となっては、その欠点も目立ち、主役とは言えなくなってきているようですが、今でもこの技術を主力メニューの一つに入れている医院もかなりあるようです。この技術は、メタル修復とセラミックとの複合技術とも言え、メタルの強度を生かしつつ、その表面にセラミック材料を焼き付けて、天然歯に近い外観を備えたものです。メタルのフレームを作成した上で、その表面を粗造にした上に、粉末状のセラミックを盛り付け、これを高温で焼き上げるもので、ちょうど七宝焼きと同じ原理の応用でした。一つ一つ、メタルフレームの上に、水で溶いたセラミックの粉末を盛り上げ、極めて微妙な色合いや色調を配慮しつつ、焼き上げるもので、歯科技工士さんの手間の集積とも言える職人芸の世界の技術でした。その分、費用もかかり、高価な治療技術でしたが、これまでに無かった審美的修復技術として、一世を風靡しました。しかし、この技術にも、いくつかの欠点がありました。
まず第一の問題点は、メタルとセラミックの二層構造に起因するもので、その分、修復する歯牙表面の削除量が多くなること、さらにもう一つ、これはかなり専門的な話になりますが、金属の裏打ちがあるため修復冠が光を透過せず、天然歯が持つ特有の透明感が出ない、と言う問題点でした。一時期、タレントさんの多くが、白い歯を求めて、明らかにこの修復をしていましたが、やはり天然歯との違いが一般の素人の方の目にも明らかに分かったのは、この透明感の問題でした。セラミック部分が天然歯と同様の色調で仕上がっても、その下のメタル層部分が光を透過しないため、天然歯独特の透明感が出ないのです。
(下の新しいセラミック技術による修復冠と比べると、その差は、一般の方にも歴然とお判りいただけるでしょう。)
<新しいセラミック技術による修復>
(最新のセラミック技術によるメタルを使わない奥歯の修復)
(現代のセラミック修復技術にたどり着くまでに、既に長くなってしまいました。一度、稿を改めます、
なお、冒頭で書いた” What a wonderful world ! “の歌詞は、次のようなものです。こちらを是非、お聴き下さい。)
松賀歯科 シニア院長
松賀正考
What A Wonderful World !
I see them bloom for me and you
And I think to myself what a wonderful world
溢れるような木々の緑、僕たちのために咲いているような赤いバラ
The bright blessed day, the dark sacred night
And I think to myself what a wonderful world
真っ青に晴れ渡る青空、浮かぶ白い雲
光り輝く昼の空と静謐さに満ちた暗い夜
Are also on the faces of people going by
I see friends shaking hands saying how do you do
They’re really saying I love you
大空に拡がる虹の色
行き交う人々の顔に拡がる豊かな思い
やぁ、と言葉を交わし、手をにぎり合う人たち
彼らは、お互いを愛し合ってるんだ
They’ll learn much more than I’ll never know
And I think to myself what a wonderful world
Yes I think to myself what a wonderful world
泣いている赤ん坊たちはすくすく育ち
私の知らない新しい世界を彼らは生きていく
そう、この世界は何て素晴らしいんだ、って